今回は贈与を受けた場合に、また贈与によって取得した不動産を売却した場合に、どんな税金がかかってくるのか、贈与の基礎知識をわかりやすく解説していきます。
この記事を読むと分かること
- 不動産を贈与すると、どんな税金がかかるのかが分かります
- 贈与税の計算の仕方と、控除の特例についても分かります
- さらに、贈与で取得した不動産を売却するときにかかる税金についても分かります
目次
不動産を贈与すると税金がかかります
まず、不動産の贈与について、基本的な知識をおさらいしてみましょう。
贈与とは、
自分の財産を無償で相手方に贈るという意思表示を示し、相手がこれを承認する事によって成立する民法上の契約の事です。
なんだか難しい表現ですが、要は誰かに物をあげるっていう事ですね。
そして、この贈与を行うと、「贈与税」が課税されます。
タダで物をあげるのに、税金がかかるのか!と思うかもしれませんが、贈与税は物をもらった方の人にかかります。
この贈与税の目的の一つは、生前贈与による相続税の回避の防止です。
例えば、親が自分が亡くなって相続が発生した時に、子供が支払うべき税金(相続税)を回避しようとして、
まだ生きている間に、子供に財産をタダであげたとしても、結局は贈与税によって税金が取られる(泣)という仕組みです。
不動産を売っても贈与とみなされる事があります
実は、不動産をタダであげたわけではないとしても、税務上、贈与とみなされてしまう取引があります。
例えば、このような取引は贈与とみなされて課税される可能性がありますので注意が必要です。
贈与とみなされる可能性のある取引
①お金の受け渡しがないのに不動産の名義を入れたり変更した時
例えば、親が建築資金を全額出して建てた二世帯住宅の名義が子供と共有になっている場合
②時価よりも著しく安い(高い)価格で不動産を売買した時
例えば、時価5,000万円のマンションを1,000万円で購入した場合
③借金を免除してもらった時
例えば、親からお金を借りて不動産を購入し、後から返済しない事にした場合など
上記の例の様に、不動産の贈与とは、形式的ではなく実質で判断されます。
売った事にしているけど、実はあげた・・・・みたいな事はできないわけですね。
贈与は親族間で多く行われますので、税務署は、親族間で不動産を売買した時などは贈与にあたらないか(税金が取れないか)特にチェックしている様です。
贈与した不動産の価格を評価する方法は?
まず、お金を贈与するとその金額がそのまま贈与を受けた額になりますが、
不動産を贈与した場合には、その不動産の「評価額」が贈与した額となります。
この不動産の「評価額」ですが、実際の売買取引の相場の価格のことではありません。
あくまで贈与税を課税する為の基礎となる不動産の額で、相続税を算出する時にも利用する評価方法です。
ここでは、不動産の評価方法を詳しくは説明しませんが、土地の評価額は、国税庁が定めた「路線価」に基づいて算出します。
建物に関しては、固定資産税評価額を用います。
贈与税の算出方法
ここからは、不動産を贈与した時にかかる税金の算出の仕方について説明していきます。贈与税の課税制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」の二つの制度があります。
まず「暦年課税」が基本と言えますが、贈与があった翌年に申告して納税する方法です。
もう一つの「相続時精算課税」は、この制度を使うことを選択すると、その年に受けた贈与について2,500万円の特別控除を適用(超過額は20%の税率で課税)して贈与税を計算し、その後、贈与者(あげた人)の相続が発生した時に相続税と合わせて精算、納税する制度です。
この制度は贈与を受けた翌年に申告することで、選択し適用することができます。
それでは、それぞれの制度を分けて説明していきます。
暦年課税
贈与税の計算は、1月1日から12月31日までの1年間に個人から贈与を受けた財産で、課税対象となるものの額の合計額を課税価格とします。
その合計額から基礎控除110万円を差し引きます。
その贈与が父母や祖父母などの直系尊属からもらった住宅購入のための資金であれば最大1,200万円まで非課税となる特例があります。
詳しくは下記の「住宅購入資金の贈与の特例」の項目で解説します。
20歳以上の者が親や祖父母などの直系尊属から受ける贈与については、特例贈与として税率が軽減されます。
贈与により財産を取得した場合の贈与税の計算方法は次の式で計算します。
贈与税の計算式(暦年課税)
では、贈与税の税率はどのようなものでしょうか?
税率は課税価格によって変わってきます。以下に表を記載します。
贈与税の速算表
基礎控除後の課税価格 | 一般贈与 | 特例贈与 | ||
税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | |
200万円以下 | 10% | ー | 10% | ー |
200万円超 300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
300万円超 400万円以下 | 20% | 25万円 | ||
400万円超 600万円以下 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
600万円超 1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,000万円超 1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
1,500万円超 3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 45% | 265万円 |
3,000万円超 4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
ちなみに、不動産の贈与を受けた場合は表の一般贈与にあたります。
贈与税の税率ってなかなか高いですよね。
贈与税の税額の計算例
では、贈与税の計算を例をあげて実際にしてみることにしましょう。
計算例
特例贈与の場合:
実の父親から20歳以上の子が500万円の贈与を受けたとします。
基礎控除後の課税価格 500万円−110万円=390万円
390万円×15%ー10万円 =48.5万円
一般贈与の場合:
妻の両親など直系尊属以外から500万円の贈与を受けた場合
基礎控除後の課税価格 500万円−110万円 =390万円
390万円×20%ー25万円 =53万円
相続時精算課税
相続時精算課税制度とは贈与税と相続税の課税を一体化して、相続が発生した時に相続税と精算する制度です。
親子間での生前の不動産贈与などを行う時にはこの制度の利用できるか検討すると良いと思います。
適用対象者
- 贈与者(あげる人):60歳以上の父母、祖父母(直系尊属)
- 受贈者(もらう人):20歳以上の子、孫(直系卑属であり、子は推定相続人である事)
※上記住宅取得資金の贈与の特例の場合、贈与者の年齢制限はありません。
贈与税の計算方法(相続時精算課税)
受贈者は相続時精算課税を選択した年以降の各年において、この制度にかかる贈与者ごとに贈与税を計算します。
相続税精算課税を選択した場合の贈与税額の計算は以下の式で計算します。
(贈与財産の価額 − 特別控除2,500万円) ×20% =贈与税額
※特別控除は、複数年の累積限度額です。それで過去に特別控除を適用した場合は、適用後の残額が限度額となります。
相続税額の計算
相続が発生したら、贈与財産も含めて相続税の計算をします。その相続税額からすでに納めた贈与税額を控除したものが実際に収める相続税となります。実際に納める相続税額より、すでに納めた贈与税額の方が多い場合、その差額は還付されます。
計算の方法は次の通りです。
まず、相続税額を計算します。
相続財産の価額 + 相続時精算課税選択後の贈与財産の価額 = 課税価額
この課税価額をもとに、通常の相続税額の計算をします。
その相続税額から、すでに納付した贈与税額がある場合は引きます。
相続税額 − すでに納付した相続時精算課税にかかる贈与税額 = 納付すべき相続税額
相続時精算課税制度とはその名の通り、すでに贈与した財産を、相続が発生した時に相続財産に戻して相続税を計算し、精算するというイメージです。
それで、贈与時に相続時精算課税制度の控除を使って贈与税を納税しなかった場合、相続が発生した時に相続税と共に、税金を納めることになります。
贈与税に適用できる控除の特例
贈与勢には、いくつか適用できる特例や控除があります。
特例や控除を適用できる場合には贈与税をかなりの部分軽減することができます。
夫婦間贈与の特例
その一つは『配偶者控除』です。通称「おしどり贈与」とも呼ばれていますが、配偶者に居住用不動産または、居住用の不動産購入用の資金として贈与をする場合に、基礎控除の110万円に加えて2,000万円まで控除することが出来ます。
控除を適用するには下記の条件に当てはまることが必要です。
適用要件
- 婚姻期間20年以上。
- 居住用不動産かその取得のための費用。
- 贈与を受けた年の翌年の3月31日までに住み、かつその後も引き続き住む見込みがあること。
- 一生に一度しか、この控除の受けられない。
- 贈与税の申告が必要。
配偶者控除の適用を受けるための手続きや必要書類について、詳しくは国税庁のホームページをご確認ください。
住宅購入資金の贈与の特例
2021年12月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属からの贈与により、居住用の住宅の購入、新築、増改築に充てるための資金を取得した場合、一定の条件を満たす場合、最大1,200万円まで非課税となります。
非課税限度額
マイホームの新築等にかかる対価の消費税率が10%である場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
平成31年4月から令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
上記以外の場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
注:「省エネ住宅」とは下記の省エネ等基準に適合する住宅でその証明書などが取得できるものです。
- 断熱等性能等級4若しくは一次エネルギー消費量等級4以上
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上若しくは免責建築物であること
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上
主な適用の条件は?
マイホーム(新築・取得・増改築など)
・床面積50㎡以上240㎡㎡以下であること。
・床面積の2分の1以上が居住用であること。
・中古住宅の場合は、一定の耐震基準を満たすものであること。
・増改築の場合は、工事の費用が100万円以上で、費用の2分の1以上が居住用にかかるものであること。
受贈者(もらう人)
・20歳以上(贈与年の1月1日時点で)であること。
・合計所得金額が2,000万円以下であること。
・原則として、贈与年の翌年の3月15日までに新築、取得、増改築をした上で居住していること。
敷地
・住宅の新築に先立って取得する敷地(受贈者は新築住宅を所有または共有すること)又は建売住宅・分譲マンションなどの新築と同時に取得する敷地であること。
詳しくは、国税庁のホームページをご確認ください。
贈与で取得した不動産を売却した時にかかる税金とは?
ここまでで、贈与にかかる税金、贈与税について説明してきました。
ここからは、贈与で取得した不動産を売却した場合にかかる税金について、説明していきます。
不動産を売却した時にかかる税金の主なものは、譲渡益にかかる所得税と住民税です。
譲渡益ですから、不動産を売ってお金が手元に入ったらそのお金に税金がかかるというよりも、あくまで不動産を売却して利益が出た部分に対して税金がかかります。
つまり、どんな場合でも税金がかかるというわけではないんですね。
不動産を取得した金額とその費用を足した金額より、売却した金額が低ければ、利益は出ていないので所得税はなし、となります。
ポイント
不動産を売却してプラス(利益)が出ている場合に税金はかかります。
では、不動産を贈与で取得している場合、タダでもらったのだから、売却した金額の全額が利益になってしまうの?という疑問が湧きますね。
実はそうでもないんです。
なぜなら、相続や贈与によって取得した不動産の取得時期は、亡くなった人や贈与した人の取得の時期がそのまま取得した人に引き継がれることになっているからです。
つまり、もらった日ではなく、あげた人が不動産を取得した日を、その不動産の取得日として考えます。
ポイント
取得日は贈与者がその不動産を取得した日なので、贈与者の取得費を引き継げます。
それで贈与者が取得した金額が、売った金額よりも高ければ、譲渡益は出ていないということになり、所得税は課税されません。
逆に譲渡益が出ている場合には、所得税が課税されることになりますが、
譲渡所得にかかる税金は、その不動産の所有期間の長さによって税率が変わります。
不動産譲渡所得にかかる税金
所有期間5年以下(短期譲渡所得) 所得税30% 住民税9%
所有期間5年を超(長期譲渡所得) 所得税15% 住民税5%
上記の所有期間の起算日ですが、贈与や相続で取得した不動産の場合、被相続人がまたは贈与者が取得した日が起算日になります。
つまり贈与を受けた人がもらった日ではなく、あげた人が取得した日から所有期間を数えることができるので、軽減税率を適用しやすくなります。
まとめ
この記事では贈与を受けた時の税金の考え方と、贈与で取得した不動産を売却した場合の税金について説明しました。
- 適正価格で売買しなければ、贈与とみなされて贈与税がかかることがある。
- 親からの贈与の場合、「暦年課税方式」と「相続時精算課税方式」とを選択できる。
- 居住用不動産または居住用不動産の購入資金の贈与には適用できる控除の特例がある。
- 贈与で取得した不動産の所有期間は贈与者の取得日から数える。
不動産を売却した時にかかる税金についてはこちらの記事をご覧ください。
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